【編み物本を編む】~ルーエル通り39番地

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【ペストのことが書かれた小説『海のカテドラル』】14世紀 バルセロナ、木村裕美=訳

東日本大震災で犠牲になられた皆さまのご冥福をお祈り申し上げます。

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パンデミックになるのかという勢いでウィルスのニュースが流れ始めた頃、思い出したのは、スペイン文学『海のカテドラル』でした。

主人公アルナウの妻が、黒死病(ペスト)に罹って死んでしまう場面が、切なく思い出されます…。

 

舞台はバルセロナ。遠い東方オリエントを荒廃させた疫病がヨーロッパに広がり、その数ヶ月後ついにバルセロナに上陸。1348年3月末のことです。

人々が怖れる中、感染者は増え続け、バルセロナ市民は家に閉じこもり、感染者は外に放置されます。

そして、きのうまで元気だったアルナウの妻マリアが、1日の間に黒くなって、死んでしまう...。

 

初めてこの本を読んだ時は、今日のような世界が来るなんて想像さえなかったから、「14世紀には、なんと恐ろしい病気が流行ったのだろう」と思っていました。

やるせない、まさに何もできず立ち尽くすしかない感情と、その情景が、まざまざと脳裏に浮かび、アルナウとマリアの、愛と哀しみが響き、一緒に涙し、居たたまれない気持ちだけが残りました。

 

少し長くなりますが、抜粋引用です。『海のカテドラル(下)』第三章 情熱のしもべp15-18

...アルナウはマリアの頭をなでた。彼女は自分のまえでひざをついている。体が熱い。

「お前...」

手で妻のあご先をさぐった。まさか、おまえ...おまえはだめだぞ。

マリアは透明な緑色の目を夫にむけた。汗ばんで、顔が紅潮している。アルナウは彼女のあごをもちあげて、首を見ようとしたが、マリアは痛そうに顔をしかめた。

「おまえはだめだ!」アルナウが叫んだ。

マリアは夫の草履(ぞうり)を手にもって、ひざまずいたまま、アルナウをじっと見た。彼女の頬に涙がつたう。

「おまえはだめだぞ。ぜったいだめだ!」アルナウもそばにひざまずいた。

「行ってちょうだい、アルナウ」マリアが口ごもるように言った。「わたしのそばにいてはだめ」

アルナウは彼女を抱きよせようとした。肩をつかむと、マリアはまた痛そうな顔をした。

「おいで」できるだけやさしく妻を抱きあげた。マリアはすすり泣きながら、行ってちょうだい、とくり返すばかりだ。「おれが、どうしてお前をおいて行ける?おれにはおまえしかいない...。おまえは、おれのすべてなんだよ!おまえがいなくなったら、このおれはどうすればいい?治る人間もいるんだよ、マリア。おまえは、きっと治る。おまえはだいじょうぶだ」そう言って妻をなぐさめながら、閨(ねや)につれていき、彼女を寝床に横たえた。首がよく見えた。記憶にある美しい妻の首、その彼女の首がいま、黒ずみはじめている。

「誰か医者を呼んでくれ!」アルナウは窓をあけ、バルコニーから身をのりだして思いきり叫んだ。

。。。(略)

 

マリアの亡骸を、家にあるいちばん上等な敷布でつつんでやり、死者を運ぶ荷車が家のまえをとおるのを待った。街角に放置したりなんかするもんか。おれがちゃんと市の役人にひきわたしてやる...。そして、彼はそのとおりにした。疲れたような馬の蹄の音がきこえてくると、アルナウはマリアの亡骸をだきあげて、通りにおろしてやった。

「じゃあな」彼女のひたいに口づけをして言った。市の役人ふたりは驚異の目でみつめた。ふたりとも手袋をして、分厚い布で顔をおおっている。ペスト感染者には、ふつう誰も近づきたがらない。自分たちの愛する者でさえもだ。通りに放置するか、せいぜいよくても、息をひきとった褥(しとね)まできてくれと、役人を呼ぶぐらいのものだ。自分で妻をひきわたしにきたアルナウの姿に役人たちは胸をつまらせ、荷車にのせた死体の山のうえに、彼女をできるだけそっと横たえた。 

 

この小説は、絶対権力を持った村の領主が、農奴である夫よりも先に新婦と床入りしてもよいという権利(慣習法)を横暴に振りかざし、それゆえの悲惨な出来事から物語が始まります。愛、策謀、姦通、正義と信仰、そして自由。中世の荒々しい時代を生き抜く人間たちの一大叙事詩です。アルナウが産まれる前から晩年までの一生が、14世紀のバルセロナを背景に壮大なストーリーと映画のようなスケール感で展開されます。何十回分もの人生が詰まったかのよう。

手放す本も多いのですが、『海のカテドラル』は、生涯手放さないと決めている本のひとつです。

 

小説の中の「ペスト」からは現在のパンデミックになりつつある病のこと、「ユダヤ的お金の増やし方」からは金融のからくり、「村の領主」からは権力と人格は別物であること...、サッカーチーム「バルサ(FCバルセロナ)」で有名なバルセロナの男達の気質...、とにかく、現代に照らし合わせても人間の本質や知恵など、学ぶことが多く、理解の手助けをしてくれました。作家の実力が漲る本当に素晴らしい小説です。

 

 

※『LA CATEDRAL DEL MAR 海のカテドラル』イルデフォンソ・ファルコネス 木村裕美=訳 

 

表紙の写真は、物語の核でもあるバルセロナ『海の聖母教会』です。アルナウの人生に寄り添うように、建設が進んでいきます。

 

私の足りないレビューより、たしかNHKで読書の番組をお持ちでいらした故・児玉清さんが書かれた帯の言葉をどうぞ。

ハラハラドキドキの連続は、呼吸困難に陥れるほどの口惜しさで歯ぎしりさせ、崖っ縁を歩かされるような切迫感へと追い込む。アルナウよ負けるな、立て、頑張れ、と何度心の中で叫んだことか。

こんなに熱く心を燃やし、興奮し、身も心ももみくちゃにされるほどのめりこんだ面白冒険歴史物語は他に類を見ない (俳優)児玉清 

 

このお話を読んでいたから、初めてコ口ナのことを知った時に、「あれ?もしかして、やばいかも?」と思ってしまいました。日本はもちろん、ヨーロッパの感染拡大が収まりますように祈ります。

 

お時間があったら、ぜひ。上下2巻でちょっと長め。それがいいんだけど。

そうそう。読んでいませんでしたが、カミュの『ペスト』が今、ベストセラーなのね。

 

優しく強く頑張りましょうね。またね!

 

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不条理なウィルスに感染してしまったとしても、その人達は全然悪くないし、ウィルスではないもの(嫌ったらダメ)。一方、陽性なのに、ジムや飲食に出歩く一部の人(しかも歳だけはいい大人)は、呆れるほどに行動がよくない。嫌いって書くのはいやだけど、その行為はウィルス的だと思う。猛省して下さいね。

 

いつもありがとうございます♡らびゅ~

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